「タントラ(Tantra)」という言葉は、現代において多角的な意味で用いられていますが、学術的・歴史的な視点、そして仏教の正統な教理から紐解くと、「宇宙の真理と人間の心身を結び、悟りや自己の潜在的な仏性を開花させるための緻密な教理と実践体系」であることが分かります。
本記事では、タントラの本来の意味や語源、原典における位置づけ、ならびにインドから東アジア・日本(真言密教)へと至る展開について、学術的根拠に基づき正確に解説いたします。
「タントラ(tāntra / tāntrika)」という言葉は、古代インドのサンスクリット語に由来します。
語義的には「経糸(たていと)」や「織物」を意味し、そこから転じて「教理を織り成す体系」「聖典・組織された実践体系」を指すようになりました。
スートラ(sūtra / 経):「横糸」を意味し、一般的な仏教経典や基本的な教理を記述したもの。タントラ(tantra / 密教聖典):「縦糸」を意味し、経典の奥底に秘められた実践論や深遠な義趣を解明・展開する文献群。
仏学者・中村元博士の『仏教辞典』においても、次のように定義されています。
「スートラ(sūtra, 経)が横糸を意味するのに対し、縦糸を意味し、経典には明確にとかれない秘密の意義を解明する文献を意味する。……インドでは、8世紀以降成立した後期密教の聖典群が、〈タントラ〉と呼ばれるようになった。」
― 中村元『仏教辞典 第2版』(岩波書店、2002年)より引用 このように、タントラとは俗説的な解釈とは一線を画す、「宇宙の根源的真理と人間とを密接に繋ぐ聖典・実践体系」を意味しています。